なぜ、公式を使えているのに、本番になると手が止まるのか
過去問を開く。
公式を思い出す。
数字を当てはめる。
答えが出て、○がつく。
―それなのに、本番になると崩れてしまう。
そんな経験はありませんか。
基本問題なら解ける。
でも、数字の置き方を少し変えられたり、
いつもと違う角度から聞かれたりすると、
突然手が止まってしまう。
「これは、どの公式を使うんだっけ」
「この√3は、掛けるんだったか、割るんだったか」
焦りとともに、
頭の中が真っ白になる。
あの感覚は、経験した人なら
本当によくわかると思います。
でも、これはあなたの努力が
足りないからではありません。
公式を使えることと、その意味が
わかっていることは、似ているようで
少し違うからです。

「解けた」の正体が、公式の再現になっていないか
公式に数字を当てはめて、答えを出す。
この作業は、公式の意味を
十分に理解していなくても、
できることがあります。
参考書を何周もして、解き方のパターンを覚える。
似た問題を繰り返し解けば、
同じ形の問題には対応できるようになります。
もちろん、過去問を繰り返すことは大切です。
ただ、それだけでは「理解」よりも
「手順の再現」に近くなってしまう
ことがあります。

そして、再現だけで支えてきた知識は、
問題の形が少し変わったときに崩れやすい。
いつもは電圧を求めていたのに、
今回は電流を聞かれた。
見慣れた回路なのに、
抵抗の位置が入れ替わっている。
公式は知っているのに、
どの数をどこへ入れればよいのかわからない。
それまで解けていたはずなのに、
急に手が止まってしまうのです。
参考書だけでは、公式の手前まで戻れないことがある
なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。
電験三種の参考書は、
限られたページ数で、
非常に広い試験範囲を扱います。
そのため、ω=2πf
あるいは、
Y結線では、線間電圧は相電圧の√3倍になる
という結果は書かれていても、
その手前にある数学や物理まで、
十分に説明できないことがあります。

「なぜ2πがつくのか」
「なぜ√3が出てくるのか」
「そもそも平方根とは、どのような数なのか」
そこまで戻って説明するには、
多くの紙面が必要になるからです。
特に、学生時代から10年以上数学に
触れていなかった人にとって、
この「公式の手前」が抜けていることは、
決して珍しくありません。
基礎からやり直した方がよいと思っても、
仕事が終わったころには頭も体も疲れている。
数学の教科書を最初から開き直す時間も、
気力も残っていない。
だから、とにかく問題数をこなして、
解き方を覚えることで乗り切ろうとする。
その努力は、決して間違いではありません。
むしろ、限られた時間のなかで、
なんとか合格しようと頑張ってきた
証拠だと思います。
ただ、公式の意味がわからないまま
過去問を回し続けると、本番で最も怖い
「見たことのない形」に
対応できなくなることがあります。
公式の「かけら」だけでは、組み立て直せない
試験当日を想像してみてください。
時間は限られています。
見慣れない問題が出た瞬間、
頭の中に浮かぶのは、
これまで覚えてきた公式のかけらです。
「たしか、ここに√3があった」
「分母だったような気もする」
「この公式と似ているけれど、何かが違う」
公式がなぜその形になるのかを
理解していなければ、そのかけらを
正しく組み立て直すことができません。
焦って公式を探しているあいだにも、
試験時間は過ぎていきます。
一方で、
公式の意味までわかっている人は、
少し違う考え方ができます。
公式を忘れてしまっても、
数の性質や物理現象、図の関係から、
その形をたどり直せるからです。
√3は、突然現れた数字ではない
例えば、Y結線で線間電圧が
相電圧の√3倍になるのは、
三相交流だから、とにかく√3を掛ける
という決まりが
先にあるからではありません。
三相交流では、3つの相電圧が、
それぞれ120°ずれています。
線間電圧は、120°ずれた
2つの相電圧の差です。
その関係をベクトルで
表して計算すると、
結果として√3が現れます。
つまり、√3は公式の外から
突然やってきた数字ではありません。

120°ずれた電圧同士の関係を
計算した結果として現れた数字
なのです。
ここまでわかっていれば、
掛けるか割るか迷ったときにも、
「Y結線の線間電圧は、
2つの線の間の電圧だから、
相電圧より大きくなるはずだ」
と、自分で判断できます。
公式を完全に思い出せなくても、
少なくとも答えの方向を
見失いにくくなります。
これが、公式を「覚えている」ことと
「わかっている」ことの違いです。
理解した知識には、戻るための道がある
もちろん、一度理解すれば、
二度と忘れないわけではありません。
理解したことでも、時間がたてば忘れます。
でも、意味まで理解した知識には、
戻るための道が残ります。
公式を忘れても、
「そもそも、どんな現象だったか」
「図では、どのような関係だったか」
「この数字は、何を表していたか」
と順番にたどれば、もう一度公式の形へ戻れます。
丸暗記した公式は、
忘れた瞬間に手が止まります。
理解した公式は、忘れてもたどり直せます。

そして、自分で意味をたどって
解けた問題は、単に○が
つくだけではありません。
「自分で考えて解けた」という
感覚が残ります。
その小さな手応えが、次の問題へ
進む自信になるのだと思います。
公式を覚えるだけで、終わらせない
だから、このカテゴリーでは、
公式を意味のわからないまま
丸暗記することから、
少し離れてみたいと思います。
公式を覚える必要がない、
ということではありません。
電験三種では、試験時間も限られているため、
重要な公式は覚えておく必要があります。
ただし、公式の形だけを覚えて終わるのではなく、
「なぜ、この形になるのか」
というところまで、一緒に戻って考えていきます。
遠回りに見えるかもしれません。
それでも、公式の意味を一度理解しておけば、
過去問を解くときの迷いが減り、
少し形を変えられた問題にも
対応しやすくなります。
応用問題や初めて見る問題で
崩れないためには、これが結果的に
いちばんの近道になると、
私は思っています。

このシリーズで扱うこと
このカテゴリーでは、
電験三種の計算問題を支えている
「数そのものの性質」を扱います。
例えば、
- 有理数と無理数は何が違うのか
- なぜ√2や√3は、きれいに割り切れないのか
- 平方根は、何を表しているのか
- 指数の掛け算で、なぜ指数部分を足すのか
- 分数の割り算では、なぜ
ひっくり返して掛けるのか - 比を簡単にしても、なぜ関係が変わらないのか
- 公式の分子と分母には、どんな意味があるのか
このような、参考書では短く通り過ぎて
しまいがちな部分を、ひとつずつ
言葉にしていきます。
「有理数や無理数なんて、電験に必要なの?」
そう思うかもしれません。
しかし、√2や√3がどのような数で、
なぜ小数で正確に書き切れないのかを
知ることは、交流の実効値や
三相交流を理解する入口になります。
一見すると地味な基礎ですが、
この部分が、初めて見る問題を
自分の頭で考えるための土台になります。
はるの電気数学の進め方
各記事は、基本的に次の順番で進めます。
1.つまずきの確認
まずは、多くの人がどこで
迷うのかを確認します。
「自分だけがわからないのではないか」
そんな不安を抱えたままでは、
落ち着いて学ぶことができません。
つまずく理由を言葉にして、
何がわからなかったのかを一緒に整理します。
2.公式の本質
数や記号が何を表しているのか、
専門用語をできるだけ
少なくして説明します。
公式をいきなり暗記するのではなく、
まずはイメージや現象から入ります。
3.電験三種での使われ方
理解した内容が、電験三種の
どの公式や計算に使われているのかを
確認します。
数学だけで終わらせず、
現象 → イメージ → 理解 → 数式 → 過去問
という順番で、実際の問題へつなげていきます。
ひとつの記事で扱う内容は、
できるだけ絞ります。
初めて学ぶ人も、
数学から長く離れていた人も、
途中で迷子にならないように、
少しずつ積み上げていきます。
このシリーズを最後まで読み終えたら
少しだけ、想像してみてください。
応用問題を前にしても、頭の中にある
「公式のかけら」を必死に探すだけ
ではなくなった自分を。
公式を忘れても、
現象や図、数の意味からたどり直せる。
初めて見る形の問題にも、
「何を聞かれているのか」
「どの関係を使えばよいのか」
と、自分の頭で考えられる。
このシリーズだけで、すべての問題が
簡単に解けるようになるわけではありません。
それでも、これまで意味のわからない
記号に見えていた公式が、
少しずつ「読めるもの」に
変わっていくはずです。
公式の丸暗記から、意味の理解へ。
その最初の一歩を、今日ここから一緒に始めましょう。
次回は、
なぜ電験三種には、√2と√3が何度も出てくるのか
その入口となる「有理数と無理数の違い」から、
ひとつずつお話ししていきます。



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