Lesson8 誘電体|間に物を挟むと、なぜ容量が増えるのか

Lesson7の最後で、
こうなりました。
22 cm 角ほどの板を 2 mm まで近づけて、
たった 221 pF。
小さすぎます。
実際のコンデンサは、指先に乗る大きさで μF 級の容量を持ちます。
100万倍以上の差です。
この差を作っているのが、
極板の間に挟む物質です。
そして、
その仕組みはLesson1ですでに出ています。
誘電分極です。
挟むと、なぜ増えるのか

極板の間に、
絶縁体を挟みます。
このとき、
絶縁体の中で何が起きるか。
Lesson1で扱ったとおり、
導体の自由電子のように、
電荷が物質の中を自由に移動することはできません。
ただし、
原子・分子の中では電荷の位置がわずかにずれます。
その結果、
- 正の極板に接する面には、負の電荷が現れる
- 負の極板に接する面には、正の電荷が現れる
これが誘電分極です。
ここからが本題です。
この分極でできた電荷は、
極板の電荷と向きが逆です。
だから、
極板がつくる電界を打ち消す向きに働きます。
結果として、
間の電界が弱くなります。
弱くなると、なぜ「たまる」のか

一見、
逆に思えます。
電界が弱いのに、
たくさんためられる。
Lesson5の式で追えます。
V=Ed間隔 d は変えていません。
電界 E が弱くなれば、
電圧 V も下がります。
そして、
C=\frac{Q}{V}同じ電荷 Q なのに、電圧 V が下がった。
だから C は大きくなります。
言い換えると、
こうです。
電界を打ち消してくれる物質が入っているので、
同じ電圧まで上がるのに、より多くの電荷を必要とする。
だから「たくさんためられる」。
誘電率と比誘電率

この「打ち消してくれる度合い」を表すのが、
誘電率 ε です。
真空の誘電率を基準にします。
\varepsilon_0=8.85\times10^{-12}\ [\mathrm{F/m}]そして、
物質の誘電率は、
εr が比誘電率です。
単位はありません。「真空の何倍か」を表す数字です。
| 物質 | 比誘電率 εr(おおよそ) |
|---|---|
| 真空 | 1 |
| 空気 | 約 1.0006(ほぼ1) |
| 紙 | 2〜4 |
| ガラス | 5〜10 |
| 水 | 約 80 |
空気はほぼ 1 なので、
問題文で「空気中」とあれば真空と同じに扱って構いません。
そして、Lesson7の式に入れると、
C=\varepsilon\frac{S}{d}=\varepsilon_0\varepsilon_r\frac{S}{d}比誘電率が εr の物質を挟むと、
容量は εr 倍になります。
これだけです。
難しい操作はありません。
計算する前に、予想する

比誘電率 4 の誘電体を、
極板の間いっぱいに挟みました。
容量はどうなりますか。
**4倍。**素直な比例です。
電源につないだまま挟んだら、
たまる電荷は。
Lesson6・7で決めた読み分けです。
つないだまま → V が一定。C が4倍なので、Q = CV は 4倍。
電源を切り離してから挟んだら、
電圧は。
切り離した → Q が一定。C が4倍なので、V = Q/C は 1/4。
同じ操作、
正反対の答え。
もう見慣れてきたはずです。
そのとき、
電界はどうなりますか。
電圧が 1/4 で、
間隔は変わらない。E = V/d なので、
電界も 1/4。
誘電体が電界を打ち消した——最初に説明したことが、
そのまま数字になりました。
誘電体を「一部だけ」挟むとどうなるか
電験3種でよく出るのが、
これです。
パターン1:面積の半分だけ挟む
左半分に誘電体、
右半分は空気。
この場合、2つのコンデンサが並んでいると考えます。
- 左:面積 S/2、誘電体あり
- 右:面積 S/2、空気
2つは同じ極板を共有していて、どちらにも同じ電圧がかかっています。
これは並列です。
パターン2:厚さの半分だけ挟む
上半分に誘電体、
下半分は空気。
この場合は、2つのコンデンサが積み重なっていると考えます。
- 上:間隔 d/2、誘電体あり
- 下:間隔 d/2、空気
電荷は上下を貫いて共通です。
これは直列です。
どちらのパターンかは、
挟み方の向きで決まります。
- 横に分かれている(面積を分ける)→ 並列
- 縦に重なっている(間隔を分ける)→ 直列
計算方法は次のLessonで扱います。
ここでは「一部だけ挟む問題は、2つのコンデンサに分けて考える」とだけ押さえてください。
小さな数字で確認する
C=\varepsilon_r\times C_0=5\times221=1105\ \mathrm{pF}Lesson7で計算した 221 pF のコンデンサ(面積 0.05 m²、間隔 2 mm)に、
比誘電率 5 の誘電体を、すき間なく挟みました。容量は。
約 1100 pF。1.1 nF です。
式から直接やっても同じです。
C=\varepsilon_0\varepsilon_r\frac{S}{d}=8.85\times10^{-12}\times5\times25\approx1.1\times10^{-9}\ \mathrm{F}一致しました。
もう一つ。
このコンデンサに、電源を切り離した状態で誘電体を挿入しました。
挿入前の電圧が 200 V だったとして、挿入後の電圧は。
切り離した → Q 一定。C が5倍なので、
V=\frac{Q}{C}=\frac{200}{5}=40\ \mathrm{V}40 Vまで下がります。
電界も 1/5 になります。
E=\frac{40}{0.002}=2\times10^{4}\ \mathrm{V/m}挿入前は 1×10⁵ V/m でしたから、
たしかに 1/5 です。
はるの気づき
「誘電体を入れると容量が増える」
これは覚えていました。
試験にも出るので、
当然のように暗記していました。
でも、
なぜ増えるのかは知りませんでした。
だから、
こう聞かれたときに答えられませんでした。
誘電体を入れると、
極板間の電界はどうなりますか。
増えるのか、
減るのか。
容量が増えるのだから、
電界も強くなるのでは——そう考えて、
外しました。
理由をたどれば、
逆でした。
電界が弱くなるから、容量が増えている。
弱くなることが原因で、増えることが結果でした。
原因と結果を逆に覚えていたのです。
暗記した知識は、順番を持ちません。
だから、少し角度を変えて聞かれると崩れます。
「なぜ」を一度たどっておくと、
順番が入ります。
電験3種では、ここを確認する
誘電体は、
単独でも組み合わせでも出ます。
確認すべきは4つ。
-
比誘電率は「真空の何倍か」
εr 倍を挟めば、容量も εr 倍。単位はありません。 -
空気は εr ≈ 1 として扱う
「空気中」とあれば、真空と同じ計算で構いません。 -
電源をつないだままか、切り離した後か
3回目です。ここが本当に効くのが、この誘電体の問題です。 -
一部だけ挟む問題は、2つに分けて考える
面積を分ける → 並列
間隔を分ける → 直列
4つ目は、次のLessonの内容とセットです。
「向きによって直列か並列かが変わる」という発想を、いま持っておいてください。
まとめ
誘電体を挟むと、
誘電分極によって極板の電界が打ち消され、
弱くなります。
同じ電圧に達するのに、より多くの電荷が必要になる。
だから容量が増えます。
- 比誘電率 εr の誘電体を挟めば、容量は εr 倍
- 空気は εr ≈ 1
- 電源つないだまま → V 一定、Q が εr 倍
- 電源切り離した後 → Q 一定、V と E が 1/εr
一部だけ挟む問題は、2つのコンデンサに分けます。
面積を分ければ並列、間隔を分ければ直列。
次は、
その直列と並列を正面から扱います。
STEP3で最も取り違えの多い場所です。
公式が抵抗と逆になりますが、暗記の反転としては教えません。
C = εS/d に戻って、構造で説明します。
誘電体は「電界を打ち消すから容量が増える」でした。
原因と結果の順番が入っているか、6問で確認します。
EXERCISE
読んだ直後に、6問だけ。
最初の3問は、
計算しません。
頭の中で答えてから、
答えを開いてください。
問1予想 ★☆☆
比誘電率 6 の誘電体を、
極板の間いっぱいに挟みました。
静電容量はどうなりますか。
① 6倍 ② 1/6 ③ 36倍 ④ 変わらない
答えを見る
① 6倍
C = ε₀εr S/d。εr は分子にあり、1乗です。
比誘電率は「真空の何倍か」という倍率そのものなので、
単位がありません。
単位のない数を見たら、
そのまま掛ける——と決めておくと迷いません。
問2予想 ★★★
誘電体を挟むと、
極板間の電界はどうなりますか。(電荷は一定とします)
① 強くなる ② 弱くなる ③ 変わらない
答えを見る
② 弱くなる
誘電分極でできた電荷は、
極板の電荷と向きが逆です。
だから極板の電界を打ち消します。
電界が弱まる → V = Ed で電圧も下がる → C = Q/V で容量が増える。
「容量が増えるのだから、
電界も強くなるはず」と考えると外します。
電界が弱くなることが原因で、
容量が増えることが結果。
この順番が入っていれば、
どちらを聞かれても答えられます。
問3構造を読む ★★☆
極板の間の上半分だけに誘電体を挟みました(間隔を分ける形)。
これは何とみなせますか。
① 2つのコンデンサの並列 ② 2つのコンデンサの直列 ③ 1つのコンデンサのまま
答えを見る
② 2つのコンデンサの直列
上下に積み重なっており、
電荷は両方を貫いて共通です。
これは直列の特徴です。
それぞれ間隔は d/2。
上は誘電体あり、
下は空気。
見分け方は挟む向きだけ。
横に分ける(面積)→ 並列/縦に分ける(間隔)→ 直列。
図を描いて、
電荷がどう通るかを目で追えば、
公式を思い出さなくても判定できます。
問4まちがい探し ★★★
次の説明には誤りがあります。
どこでしょうか。
「電源を切り離したコンデンサに誘電体を挿入した。
容量が4倍になったので、
たまっている電荷も4倍になった。」
答えを見る
誤り:電荷は変わらない。
変わるのは電圧
電源を切り離しているので、
電荷の出入り口がありません。Q は一定です。
変わるのは電圧のほう。V = Q/C で、C が4倍なら V は 1/4。
電荷が4倍になるのは、
電源につないだまま挿入した場合です(V 一定、Q = CV)。
この1行の違いで、
答えが正反対になります。
問題文の「切り離した」「接続したまま」は装飾ではなく条件そのもの。
線を引いてから解き始めてください。
問5計算 ★★☆
面積 0.02 m²、間隔 1 mm の平行板コンデンサに、比誘電率 3 の誘電体をすき間なく挟みました。静電容量は何 pF ですか。
ε₀ = 8.85×10⁻¹² F/m
答えを見る
531 pF
S/d = 0.02 ÷ 0.001 = 20
C = 8.85×10⁻¹² × 3 × 20 = 5.31×10⁻¹⁰ F
= 531 pF
同じ寸法で真空のままなら 177 pF です。3倍になっただけです。
誘電体の計算は、
真空の答えに εr を掛けるだけ——先に真空で出しておくと、
検算もできます。
問6計算(条件を読み分ける)★★★
問5のコンデンサ(誘電体なしの状態)に 300 V を加えて充電し、電源を切り離してから、比誘電率 3 の誘電体を挿入しました。
(1) 挿入後の電圧は何 V ですか。
(2) 挿入後の極板間の電界は何 V/m ですか。
答えを見る
(1) 100 V (2) 1×10⁵ V/m
(1) 切り離した → Q 一定
C が 3倍 → V = Q/C で電圧は 1/3 → 300 ÷ 3 = 100 V
(2) 電界も 1/3 になる
挿入前:E = 300 ÷ 0.001 = 3×10⁵ V/m
挿入後:E = 100 ÷ 0.001 = 1×10⁵ V/m ✓(たしかに 1/3)
Lesson7の問6と比べてください。
あちらは間隔を広げて、
電界は変わらなかった。
こちらは誘電体を入れて、
電界が弱くなった。
どちらも Q 一定なのに結果が違うのは、
電界を弱めているのが誘電分極だからです。
操作ごとに「何が原因で何が変わったか」を言えるようにしておいてください。
6問、
おつかれさまでした。
問2と問4が答えられたなら、
誘電体の問題で迷わなくなります。
次は、STEP3で最も取り違えの多い直列・並列です。



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