
「設備やってるなら、
電験三種くらい取っておいた方がいいよ」
上司や先輩から、そんなことを言われた。
たしかに、持っていた方がいいのは分かる。
資格手当がつくかもしれない。
仕事の幅も広がるかもしれない。
転職するときの武器にもなるかもしれない。
だから、とりあえず調べてみる。
「電験三種 おすすめ 参考書」
評判のよさそうなテキストを買って、
家に帰って開いてみる。
最初の数ページを読む。
そして思う。
……は?
電圧。
電流。
抵抗。
聞いたことはある。

でも読み進めると、
だんだん様子がおかしくなってくる。
知らない記号。
分数。
√。
sin、cos。
?????
見たことのない回路図。
そして突然始まる計算。
解説を読んでみると、
「したがって」
「これを変形すると」
「以上より」
と書いてある。
いやいや。
その「したがって」の
間に何があったんだよ。

そこが知りたい。
何度か読み返してみる。
やっぱり分からない。
そして、そっと本を閉じる。
「……俺には無理かもしれない」
でも。
ここで一つだけ、
考えてほしいことがあります。
本当に「電験三種」が
分からなかったのでしょうか?
なぜ、電験三種を取るのか?
そもそも、なぜ電験三種を
取ろうと思ったのでしょう。
電気が大好きだから?
休みの日まで変電所を
眺めていたいから?
もちろん、そんな人もいると思います。
でも、多くの社会人受験生は
もっと現実的です。
会社で必要になった。
上司から取れと言われた。
資格手当が欲しい。
設備の仕事を続けるなら
持っておきたい。
転職するときの武器にしたい。
そして、
この先ずっと今の会社だけに
頼って働くのは、少し不安だ。

そんな理由でもいいと思うんです。
むしろ、仕事をしながら勉強するなら、
立派な理由なんて必要ありません。
ただ問題はここからです。
「よし、じゃあ勉強してみよう」
そう思ってテキストを開いたのに、
最初の入口で何を言っているのか分からない。
これは、かなりキツい。
やる気が出る前に、
「自分には無理なんじゃないか」
という気持ちの方が先に出てきます。
でも、そこで自分の能力を決めるのは、
ちょっと待ってほしいんです。

どうして、最初のページから分からないのか?
電験三種の勉強を始めて、
「理論が分からない」
「電気が苦手だ」
と思っている人がいます。
でも、よく見ると違うところで
止まっていることがあります。
電気そのものではなく、
電気を説明するために使われている
「数学」で止まっている。
たとえば、
「電圧を抵抗で割ると、
流れる電流が分かります」
と言われたとします。
ここまでは、なんとなく分かる。
ところがテキストでは、それが突然、
I = V ÷ R
と書かれる。
「ああ、Iが電流で、Vが電圧で、Rが抵抗ね」
ここまでも、まだいい。
でも問題では、
R = V ÷ I
と姿を変えて出てくる。
ここで、
「……なんで?」

となる。
さっきまで、
I = V ÷ R
だったじゃん。
なんでRが左に来た?
なんでIが下に行った?
さらに別のページを開けば、
P = V × I
P = I² × R
P = V² ÷ R
と並んでいる。
「公式、何個覚えればいいんだよ……」
となる。
でも実は、これ。
全部を別々に丸暗記しなければ
ならない話ではありません。
元をたどっていくと、
分数。
掛け算と割り算。
式の変形。
こうした数学の基本につながっています。
つまり、
電気でつまずいたと思っていたのに、
実はその少し手前でつまずいていた。
そんなことがあるんです。
分からないまま進むと、もっと苦しくなる
ここで、多くの人が
やってしまうことがあります。
「とにかく公式を覚えよう」
「過去問を何周もすれば、
そのうち分かるだろう」
もちろん、繰り返しは大切です。
でも、
意味が分からないまま覚えた公式は、
形を変えられると
急に使えなくなることがあります。
昨日解いた問題とほとんど同じなら解ける。
でも、
聞かれ方が変わる。
求めるものが変わる。
回路の形が少し変わる。
すると、
「あれ?どの公式だっけ?」
となる。
そしてまた、
「やっぱり俺、電気向いてないのかな……」
となってしまう。
でも、それは能力の問題なのでしょうか。
私は少し違うと思っています。
土台を飛ばしたまま、
その上に電気を積み上げようとしている。
だから苦しくなる。

じゃあ、どうすればいい?
答えは、ものすごく地味です。
分からなくなったところまで戻る。
これです。
分数で止まったなら、分数まで戻る。
式変形が分からないなら、
式変形まで戻る。
√3が出てきた瞬間に嫌になるなら、
「そもそも√って何だっけ?」
まで戻る。
sin、cosを見ただけで
拒絶反応が出るなら、
「三角比って、そもそも何を表しているの?」
から始める。
中学校の数学まで戻ったっていい。
恥ずかしいことではありません。
むしろ、そこを曖昧にしたまま、
難しい電気の参考書と
何時間もにらめっこする方がしんどい。
数式は「暗号」ではなく、短い文章
私が電気数学で
一番伝えたいことがあります。
それは、
数式は文章だ
ということです。
たとえば、
「電圧を抵抗で割ると、
流れる電流が分かる」
これを毎回文章で書くのは長い。
だから、
電流を I、
電圧を V、
抵抗を R
と置いて、
I = V ÷ R
と短く書いている。
それだけなんです。
数式だけを先に見ると、
意味不明な暗号に見える。
でも、その前に日本語で
意味が分かっていれば、
「ああ、この文章を
短くしたのが、この式なのか」
と見え方が変わります。
私は、
現象 → イメージ → 意味 → 数式
この順番が大切だと
思っています。

いきなり公式から入らなくていい。
まず、
「何が起きているの?」
から始めればいいんです。
では、今日何をすればいい?
「よし。明日から毎日2時間勉強しよう」
と決めなくて大丈夫です。
過去問10年分を
買う必要もありません。
今日、一つだけやってみてください。
持っている電験三種のテキストを開く。
そして、
最初に「は?」と思った場所を
探してみてください。
解かなくていいです。
覚えなくてもいい。
ただ、
「自分は、何が分からなかったんだろう?」
と考えてみる。

電気の意味?
分数?
式変形?
√?
三角比?
記号の意味?
それが分かれば、
あなたが本当に勉強を始める場所が見えてきます。
「電験三種くらい取っておけ」
簡単に言うなよ。
本当にそう思います。
仕事が終わって、
疲れて家に帰って、
ご飯を食べて、
ようやくテキストを開く。
そこに意味の分からない記号と
数式がズラッと並んでいたら、
そりゃ、閉じたくもなります。
でも、
一度テキストを閉じたことと、
電験三種に向いていないことは、
同じではありません。
もしかすると、
あなたに必要だったのは、
いきなり電験三種を
勉強することではなく、
電気を理解するための「その一歩手前」
だったのかもしれません。
私自身、電験三種に合格するまで
11年かかりました。
途中には、
本気でやって落ちるのが怖くて、
何年も参考書を
開かなかった時期もあります。
だから私は、
「頑張れば誰でもできます」
なんて簡単には言いたくありません。
分からないものを、
ただ頑張って眺め続けるのは苦しい。
だったら、一度戻ればいい。
分数まで戻っていい。
中学数学まで戻っていい。
「そもそも電圧って何?」
まで戻ったっていい。
そこから一つずつ、
電気と数学をつなぎ直していけばいい。
参考書を閉じてしまったその場所が、
あなたのスタート地点なのかもしれません。



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